TOP > 歴史・地理 > 伝承「治郎吉と狸の話」 ≪ 伝承「治郎吉と狸の話」 ≫
 
 むかし、ある村に、治郎吉というじいさんがおりました。治郎吉じいさんは、田のだんと言うところに、山小屋をつくって、一人でとまっておりました。ある夜更けのこと、小屋のそとに一匹のたぬきがやってきました。そして「治郎吉とんことん」となきました。そこで治郎吉じいさんも、負けずに「言う奴とんことん」とやり返すと、たぬきは、また「治郎吉とんことん」とつづけてなきます。治郎吉じいさんも「言う奴とんことん」と言い返してそのくりかえしのやりとりが、夜明け近くまでも続けられました。狸は一層かん高い声で「治郎吉とんことん」と、なきさけんでいましたが、そのうちに、ばったりとなかなくなってしまいました。治郎吉じいさんも、やれやれと思いながら、つかれたのでそのままごろりと横になって、いつの間にか、ぐっすりと寝込んでしまいました。
 目がさめたときは、もう、外はすっかりあかるくなっていたので、治郎吉じいさんが、小屋のそとに出て見ると、なんと大きな狸が口から血をはいて死んでいました。治郎吉じいさんは、お茶でのどをうるおしながら、相手になっていたので、たぬきにまけなかったのだと言うことです。それでめったに、とりやけものの鳴きまねはするのではないと、小さいころに聞かされた、お話であります。
(楢尾/佐藤勇次郎)



対岸の山並みに目を奪われる楢尾の絶景  
引用:「ふる里わら科八社~第一集~」(大川寿大学.静岡市中央公民館大川分館.昭和55年)