木々に遮られ流れ落ちる幻の滝

奥藁科・大川地区の最北端、七ツ峰の中腹にある大きな滝。高さは140mで、幅は4m。中央で2段に分かれていて、上を雄滝、下を雌滝と言います。垂直に落下している滝ではありませんが、奇岩や巨石の間を砕け散っていく大きな水しぶきは壮快です。両岸の大きな木々にさえぎられて滝の全体が見られないことや、滝壺のあたりが狭いこと、また何といっても交通が不便なところにあるため、知る人ぞ知る滝になっています。けれども、その大きさと言い、壮観さといい、あの日本一の那智の滝に匹敵するのではないかと言われているほど。
安倍郡誌という昔の文献には、「(この滝は)大間ニアリ。里人云。何時ノ頃ニヤアリケン。昔ハ毎年五月五日四ツ時頃、何所ヨリ来リシカ一疋ノ駿馬現レ来リテ、滝壺ニ入リテ水ニ浴セリ。故ニ古来、此瀑布ヲ名付ケテ御馬ガ滝トイヘリ」と記されてあり、名馬駿(する)墨(すみ)の伝説ともつながるお話が残っています。大間地区の人達は、毎年5月5日の早朝に、馬をこの滝に浴びさせればその馬は病気にならないと言って、実際に馬に水浴びをさせてきたといいます。また、古来から「雨乞の滝」としても有名で智者山神社の信仰と深く関わっていたとも言われています。この素晴らしい滝も、永い間秘境の地に隠れていましたが、明治43年に、当時の安倍郡長だった田沢義輔氏が、岐阜県の養老の滝になぞらえて今の「福養の滝」と名付けました。
落ちる水が、岩をはって落ちていくのがこの滝の特徴で、飛び散る水しぶきが霧になって、周辺の木々の間からこぼれるおちる日差しに、虹が浮かんで見えることがあります。また冬場の寒い季節には、落ちる水が全面凍りついた見事な景色が見られるとのこと。季節によっていろんな姿を見せてくれる福養の滝。今度訪れた時にはどんな流れと出会えるでしょうか?

引用:「大川のしおり」(杉本覚朗.香文工房.1982)